「新・悲しきヒットマン」を観て

 新・悲しきヒットマンを観た。

 山口組の顧問弁護士を務めた山之内幸夫元弁護士の原作を望月六郎監督により映画化した作品である。山之内氏については以前ドキュメンタリーを観たこともあり、興味を惹かれていたが原作も映画もみたことはなかった。本作はまだ氏がバッジを飛ばす前の作品で氏自身も出演されている。

 

 映画はヒットマンとして抗争で対立する組長を殺害し、10年の服役を終えた橘(石橋凌)が出所祝いの慰みものとして組から用意された風俗嬢のユキ(沢木麻美)と出会うシーンから始まる。ユキは一見明るいが、重度の覚醒剤依存症であり、また橘と対立する組員でもあるヒモ男に暴力的に支配されている。

 橘はユキと性交することなく、ユキを自宅に送り届ける。ユキは橘に好意を抱きキスをする。それを偶然目撃したヒモ男はユキへの支配を維持すべくユキを暴行し、それを見かねた橘は再び抗争に巻き込まれていく。

 ユキのヒモ男を巡る抗争や覚醒剤の密売を巡る抗争の中、橘はユキが覚醒剤に手を出さないよう手錠までかけて匿う。ユキは激しい離脱症状の幻覚の中、橘を罵る等するが、橘はユキを救おうとし、二人は精神的に結び合う。その後、不条理な抗争に心から嫌気のさした橘は組を抜けてユキと共に逃避行を図るが、途中に殺されてしまう。荒筋は概ねこんなところだ。

 

 社会からはじかれた暴力団の内部的秩序において堕ちきった橘は、同じように堕ちているユキを救おうとし、実際に救う。それにより橘は最期に救われた。橘の行く道は愛に繋がっており、悲劇を生みもしたがユキの笑顔をも確かに生んだのであって、その笑顔の中で橘は死ぬことが出来たのだと思われる。しかし同時に橘の遺体に駆け寄るユキの姿は悲劇としか言いようがない。不条理な世界観に貫かれた、しかしその中でも、人間が愛ある行為を完遂できることを表した映画ではないかと思われた。